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エクストリーム―――
昨年から開催された『全日本異種格闘技選手権』
一般的な認知度は今一つだが、独占資本主義で有名なあの『来栖川グループ』が全面的にバックアップしていることも手伝ってか、この世界では今最も注目されている。
今年は、10月10日の『体育の日』から、10月12日日曜日までの3日間で、一般の部、高校の部、大学の部が行われ、午前、午後で、それぞれ『男子』と『女子』に別れている。
10月11日の今日は、俺達『格闘同好会』の2人が、初出場する『高校の部』の日だ。
午前中は『男子』で俺が出場した。
―――が、結果は・・・、まぁそれは一先ず置いといて。
でも、俺はともかく、葵ちゃんは―――


2nd round

青居ツバサ

−1−

「準決勝第1試合1st round・・・
Lady―――
FIGHT!!!」

そう、全く無銘の新人『松原葵』は、初出場ながら準決勝進出を果たし、そして、今戦っている。
しかも、今回の対戦相手は、あの『来栖川綾香』前大会『第1回エクストリーム』の優勝者だ。
そうでなくとも葵ちゃんと綾香の間にはちょっとした『因縁―――(というか、繋がり)』みたいなものがある。俺個人としては、決勝で二人がぶつかった方がドラマチックな展開でいーと思ったんだが、くじ引きでこーなっちまったんでしょうが無い。
ともかく、2人は今初めて公式戦での対戦を果たした。どちらが優勢かは、俺の目にはわからないが、2人ともいままでの全試合全勝で勝ち進んでる事から見て、実力的には『互角』といったところか―――

―――ドサッ

「KO!勝者『赤』来栖川綾香!!」
レフリーの宣言に観客が一斉にドッと沸き上がる。
『1st round』の終了。
『優勝候補』の綾香の勝利。
そして―――

「――綾香お嬢様。どうぞ」
「サンキュ、セリオ」
自分のセコンドに戻り、せリオから受け取ったスポーツタオルで額と頬に流れる汗をぬぐう綾香。

葵ちゃんは―――
「・・・」
「・・・葵ちゃん」
「・・・」
俺の呼び掛けに葵ちゃんは何も応えない。
「葵ちゃん」
「・・・」
また、応えはない。
「―――っ葵ちゃん!」
「・・・!?」
強く呼び掛けた俺の声に、ビクッ、と体を震わせ応える葵ちゃん。
とりあえず、聞えてはいるようだ。
「葵ちゃん、黙り込んで、どうしたんだ?」
「・・・い、・・ん・・ぃ」
「ん?」
ほとんど聞えないような声で応えた葵ちゃんに、俺は聞き返す。
「せんぱい、ごめんなさぃ・・・」
小さい声。最後の方はかろうじて聞き取れた。
「ごめんなさいって、何が?」
「試合・・・、負けちゃって・・・」
「なっ、何言ってんだよ。あと2試合残ってるんだから、それ勝ちゃあと決勝で、それで優勝じゃんかよ」
「で、でも、だけど、綾香さん、が、相手だし、綾香さんに、負けちゃっ、たし・・・」
「・・・葵ちゃん」

そして―――
今大会での、葵ちゃんの『初めての敗北』

対戦相手が、ずっと憧れていた綾香だった事もあり、それだけでもかなり緊張していたようだが、敗北する事によって『自分と綾香との差』を思い出しちまったんだろう。

葵ちゃん・・・
俺は、どうすればいいんだ・・・
今の葵ちゃんに、俺は、何がしてあげられるんだ・・・

−2−

負けた・・・
綾香さんに、負けた・・・
エクストリームに出場して、初めての『負け』―――

綾香さんが相手なんだから・・・
最初から、闘う前から、こうなるだろうってわかってたじゃない・・・
最初から・・・
闘う前から―――

「・・・・・・・ゃん」
「・・・」
「・・ぃちゃん」
「・・・」
「―――っ葵ちゃん!」
「・・・!?」
先輩の顔が目の前にある。
私、いつの間にセコンドに戻ってきたんだろう・・・
黙っていると、先輩が私に話し掛けてくる。
「葵ちゃん、黙り込んで、どうしたんだ?」
「・・・ぃ、・・ん・・ぃ」
緊張して、声が出ない。
「ん?」
やっぱり聞えなかったみたいで、先輩が聞き返してくる。
「せんぱい、ごめんなさぃ・・・」
「ごめんなさいって、何が?」
「試合・・・、負けちゃって・・・」

・・・
そのあと先輩は私を励ましてくれたけど、私がずっと黙ったままでいたので、そのうち先輩も口を閉じてしまった・・・

沈黙・・・
長い沈黙・・・
長い、永い沈黙・・・
休憩時間は、たった1分なのに、何十分も、何時間も、何年も経ったかにさえ思える、永い、でも短い沈黙。

脂汗が滲み、溢れ出てくる。
頬が、紅く、熱くほてっていく。
体が震えてくる。
歯も、ガチガチいって止まらない。

動けない・・・
もうすぐ、次の試合が始まるのに・・・
少しも体が言う事を聞かない・・・
体になんて言ったら良いのかさえ分からない・・・

これじゃあ、このままじゃ闘えない。
綾香さんと闘えない。

・・・せんぱい。
・・・先輩。
・・・先輩!
先輩、助けて!!

―――きゅっ

「!?」

突然、誰かに左手を捕まれる。
誰?

「・・・」

恐る恐る顔を上げてみると、そこには、先輩の顔があった。

「せんぱい・・・」

私の左手が、先輩の大きな右手に包まれている。

「葵ちゃん・・・」
先輩が口を開く。
「葵ちゃん、震えてる」
「・・・」
「やっぱさ、綾香が相手だし、めちゃくちゃきんちょーする?」
せんぱい。
やっぱり、先輩には心配かけちゃいけない。
「だ、だいっじょーぶ、です。いけます。たたかえます。ホント」
うぅぁアぁァ―――。なんか変な言葉口走ってる――――ぅ。
これじゃかえって心配かけちゃうよぉお。
「・・・ハハハ、葵ちゃん無理したらかえってわかっちゃうって」
ううぅ、やっぱりばれたー。
「葵ちゃん。緊張しないようにって思うと逆に余計緊張するから何も考えないで、震えてるんならそれは『闘うためのエネルギー』なんだとおもうんだ。前にもそう言ったろ?」
「・・・はい、それと、勝とうと思わないで、先輩に胸を借りるつもりでいけって・・・」
「・・・」
私がそう言うと、先輩は少し黙って、そして―――

―――ぎゅっ

最初より強く私の手を握って言った。
「葵ちゃんは今まで『綾香に負けるため』に特訓してきたのか?」
「?」
先輩の言った言葉の意味が分からず、きょとんとした私に向って先輩は続ける。
「違うだろ。葵ちゃんが今まで、今日まで毎日、俺とずっと頑張ってきたのは、この『エクストリーム』の大会に出て、綾香と対戦して、そして、綾香と闘って、それで―――
それで、『綾香に勝つため』だろ!」
「!?」
せんぱい。そうだ、先輩の言う通りだ。私が今まで特訓してきたのは、綾香さんの背中を探して。綾香さんを追いかけて。綾香さんに追いついて。そして―――
綾香さんを追い抜くため!

「・・・せんぱい。で、でも、私なんか・・・」
ぺちっ
「コラッ、そーゆぅふーに『私なんか』ってゆーふーに自分を過小評価するの、そのあがり症よりもずっと悪いとこだぞ」
左手の指で私のおでこを弾いた後、先輩は言った。
「綾香自信が言ってたんだぜ『葵の実力は自分以上だ』って、それ抜きで考えたって、『葵ちゃんは強い!』この大会に参加してる誰よりも。だから、いま準決勝で綾香と闘ってるんだろ。『葵ちゃんは強い!』誰よりも、綾香よりも、その事実がある限り葵ちゃんならきっと勝てる。いや、きっと勝つ!緊張する必要もないし、綾香をおびえる必要もない!」
「せんぱい・・・」

「葵ちゃん、いけるな」
「・・・ハイ」
せんぱいの言葉で大分緊張もほぐれたし、勇気も出たけれど、それでもやっぱり、弱気に応えてしまう。
するとせんぱいは・・・

―――ぎゅぅっ

「・・・!」
今までよりも、ずっと、ずっと強く、私の手を、握り包んでくれる。
嬉しいけど、ちょっとだけ痛いかも・・・

「葵ちゃん!」
「・・・」
「いけるな」
「・・・はい」
2度目の先輩の言葉に、やっぱり小さいけど、それでも、さっきよりも大きい声で応える事ができた。
先輩の右手に包まれた私の左手に、先輩の力が流れてくるように感じる。

「よし、それじゃぁ、葵ちゃん、いって、そして―――
綾香に勝ってこい!!!」
「―――っはい!!!」

今度ははっきりと応えられた。
胴着の帯を締め直して、『バトルステージ』へと向う。
先輩の視線を、背中にしっかりと感じながら。

綾香さんも立ち上がってこっちに向ってくる。
でもさっきまでの、緊張や恐怖は感じない・・・
怯まずに綾香さんと対峙できる。

闘える。
今の私なら綾香さんと闘える。

そして、先輩の言ってくれたように、きっと・・・
ううん、『絶対』に―――

−3−

「――綾香お嬢様、どうぞ」
「サンキュ、セリオ」
試作型メイドロボ『HMX-13型・セリオ』から受け取ったスポーツタオルで、試合で流した汗をぬぐう。

葵・・・

汗をぬぐい終えたタオルを肩にかけ、私はさっきの試合の対戦相手の『松原葵』に視線を向けた。
全く気迫の感じられない足取りで、彼女は自分のセコンドに向う。
セコンドにたどり着いた彼女に彼女のトレーナー(?)の藤田浩之が駆け寄っていく。 何かを話し掛けているようだが、彼女はてんで上の空といった感じ。

葵・・・

弱い。
全然弱い。
弱すぎる―――

「――『1stround』相手選手『松原葵』KOまでの所要時間・約32秒です。綾香お嬢様の消費エネルギーは・・・」
セリオが今の試合結果についての『計算結果』をはじき出し、私に報告する。

32秒?

今までの試合のほとんどは1分足らずの時間でかたずけてきたのはたしかだけれど、葵相手に『1分足らず』―――

弱い。
全然弱い。
弱すぎる―――

葵は『実力』も『地力』も、全然出してない。
・・・違う、『出せていない』―――

多分あの子は、私を前にしてかなり緊張している。
それは、試合前に対峙した時から感じていたけれど。
まさか、ここまで『実力』を削ぐ事になるなんて―――

今の葵は、春に観たとき(好恵との草試合のとき)から考えても、実力の半分どころか、多く見積もっても5分の1。

「ふぅ」
考えながら、私はため息をついた。

私も、葵の為に何かしてあげたいけれど、敵同士の現時点では無理なこと。
何より、『これ』は葵の問題。葵が越えなければならないもの。

葵・・・

今の、私と葵が頼れるものは―――

「しっかりやってよね。トレーナーさん」

「ングっ・・・。ふぅ」
スポーツドリンクを一口飲んで、渇いた喉を潤した後、また、ため息を一つ。

そろそろ時間ね。
私が手に持っていた、スポーツドリンクの缶をテーブルに置き、肩に掛けていたタオルに手をかけたとき―――

「――綾香お嬢様」
「?。何、セリオ?」
唐突にセリオが口を開いた。セリオから話し掛けられることなんて、そうある事じゃ無いから、正直凄く驚いた。
「――・・・」
私の問いにセリオは指をさして答えた。
その先には・・・

葵・・・

葵が立っている。
葵が胴着の帯を締め直しながら『バトルステージ』に上ってくる。

葵・・・

違う。
違う・・・
全然違う―――

気迫も!
表情も!!
瞳の中の輝きも!!!

さっきまでの葵とは、全然違う―――

「・・・ふっ」

何故か私の口元が、僅かにほころんだ。
何故かは、私にも分からない、だけど、多分、多分だけど・・・
嬉しくて―――

トレーナーさんが、今度はどんな『おまじない』を使ったかは分からないけれど。

『今度の葵』は手強そうね。

手に取ったスポーツタオルをセリオに渡して、私も『バトルステージ』へと向った。

−4−

『赤』前大会『第一回エクストリーム』優勝者で、今大会『優勝候補』ナンバー1。
『来栖川綾香』

『青』全く無銘の新人。
『松原葵』

『1st round』が僅か32秒で終了したことから見ても、どちらの『実力』が上かは一目瞭然。

しかしながら、KOされた『松原葵』は戦意を喪失するどころか、先程までより気迫が段違いなほどに溢れているかの様にもみえる。

「両者前へ」

「・・・」
「・・・」
レフリーの指示で、お互い半歩前へ出て、お互いに対峙する。

―――葵、近くで見るともっとよく分かる。気迫も、表情も、瞳の中の輝きも、全然違う。

―――綾香さん。私、これからあなたに・・・

「準決勝第1試合2nd round・・・
Lady―――」

レフリーの声を耳に、お互い構えを取り、間合いをつめる。

―――葵ちゃん。

「FIGHT!!!」

THE END
Saturday, 08-Jul-2000 22:34:25 JST
あとがき系読み物

見ての通りの話です。
趣味、走りまくりです。
まぁ、そーゆう事です。

後、余談になりますけど、実はこの話はじめは、志保と坂下も出す予定でした。
内容としては、『観客席の後ろの方で、試合観戦している坂下を、志保が見つけて・・・』といった感じでした。
なぜ止めたかというと、話が上手く繋げられないから。
上手く繋がらないから、じゃなく、上手く繋げられないから、というのが悲しいですね(^^;

まっ、こんかいはこんなとこかな。
「あ゛あ゛っ、会社が違うぅ」


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